はじめに

いまや世界人口の半数以上がインターネットユーザーとなり、検索、メールはもちろん、ソーシャルコミュニケーション、オンラインゲーム、日用品の買い物に至るまでインターネットで行える便利なサービスが日々創り出されている。日本では人口1.27億人の内1.18億人(94%)がインターネットユーザーであり、タイも人口6924万人に対して5700万人(82%)と双方高い割合でインターネットを利用しているという統計が出ている。しかし、利用率が同様に高くとも、両国でインターネットの利用状況は異なる。御社がビジネスでインターネットの利用を広げていくのであれば、そのギャップに戸惑うことになるかもしれない。本稿では、現在のタイのインターネットの利用状況について、日本と比較しながら解説していきたい。

なお、本稿のデータは全てWe are socialの2019年1月時点のデータを参考にしたものである。

利用デバイス

日本とタイのインターネット利用状況について大きく異なる点として、利用デバイスの違いが挙げられる。利用デバイスというのは、インターネットを利用する際に利用する機器のことだ。PC、モバイル、タブレット、ゲーム機など種類は様々だが、大きくPCとモバイルに分けられる。日本では近年PCを利用する若者が減ったなどと言われているが、モバイルによるインターネットがなかった時代からインターネットが普及していただけあり、まだまだモバイルよりもPCでのインターネット利用の方が多い。ウェブサイトもPCとモバイルの両方に対応することが主流になったが、PCでの閲覧を前提につくり、それをモバイルに対応させるケースが大半だろう。

1日のインターネット平均利用時間はモバイル1時間25分に対してPCは2時間20分という結果だ。一方、タイは近年急速にインターネットとモバイルが普及した。モバイルの普及に関しては、タイも人口6924万人に対して9233万人(133%)と、日本と同じく人口を上回る普及率である。(日本は1.86億人(147%))PCが十分に浸透する前にモバイルが出現したため、タイではPCからのインターネット利用よりもモバイルからの利用の方が多い。1日の平均インターネット利用時間がPCからは3時間58分に対してモバイルからが5時間13分である。もしタイ人向けにインターネットで情報を発信する場合、ページレイアウトはモバイルに対応しているか、ボタンは押しにくくないか、画像はスマホ画面でも見やすい大きさになっているかなど、スマホからの利用を日本以上に考慮する必要がある。

インターネット利用時間

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日本とタイではインターネット利用時間においても違いがある。先進国の日本の方が、新興国のタイよりもインターネットの利用が盛んだと思いがちだが、実際はタイのインターネット利用時間は日本を大きく上回っている。インターネットユーザーの一日の平均利用時間は日本が3時間45分。これは世界各国と比べても40位と意外と低い数字である。対して、タイは9時間11分、世界でもフィリピン、ブラジルに次いで3位とインターネットの利用量が非常に多いことがわかる。前項でも触れたが、モバイルからの一日のインターネット平均利用時間に至っては5時間13分でなんと世界一位である。(日本は1時間25分で43位)タイのインターネット利用率が急激に伸び始めたのはここ数年の話で、政府の政策によりインターネットのインフラが整ったことでタイの全国各地で高速通信が利用が可能になったことが大きく影響していると考えられる。日本でも歩きスマホが問題になっていたり、スマホの利用量がかなり多いイメージだが、タイと比較すると2~3倍も差がある。考えられる理由としては、タイの方が無料wi-fiの導入が進んでいてパケットを気にせずインターネットを利用できる場所が整っていることや、営業中の店舗内でスマホで動画を視聴している光景を見るに職務中にスマホを弄ってもあまり問題にならない環境なども挙げられるかもしれない。いずれにせよインターネットの利用が増えたことでビジネスチャンスも増えているはずだ。情報を発信するにしても、Facebook、Instagram、Twitterなど、どの媒体でどのようにすれば効率的に認知してもらえるかなどタイのオンライン事情を加味した戦略を立てていかなければならない。

利用サービス(SNS)

タイのインターネットユーザーの一日のインターネット平均利用時間が9時間11分と非常に多いことがわかった。では、タイ人は主にどんなことにインターネットを使っているのだろうか。

最も利用時間が長いのは、動画サービスで平均3時間44分である。日本も同様で、ソーシャルメディアの36分や音楽サービスの16分と比べて、動画サービスは2時間28分と圧倒的である。しかしここで注目したいのは、タイのソーシャルメディア利用時間が3時間11分と動画サービスに引けを取らない利用時間だという点だ。動画サービスはその性質上訪問時の利用時間が長くなりやすい。GoogleやFacebookを含む世界の訪問者数上位20位のサイトの「一度の訪問に対しての平均滞在時間」を比較しても20分を超えるのはYouTubeだけである。(Google9分12秒、Facebook11分44秒、YouTube21分36秒)したがって、タイ人のソーシャルメディアの利用時間が割合的に高いことがわかる。日本で一番アクティブユーザー数が多いソーシャルメディアサービスはTwitterだが、その数は全インターネットユーザーの49%に留まっている。対してタイで一番アクティブユーザー数が多いソーシャルメディアサービスのFacebookは、なんと全インターネットユーザーの93%にも上るのである。

タイでインターネットを使用している人がいたら、9割以上の確率でFacebookを利用しているというのだから驚異的な数字である。タイで情報発信をする際にFacebookを活用することの重要度がわかっていただけるだろう。Facebook以外だと他には、InstagramやTwitterの登録者数もインターネットユーザー全体の過半数を超えており、マーケティングをする際にインフルエンサー(SNS上で影響力を持つユーザー)の力を借りることも戦略として有効である。

利用サービス(Eコマース)

日本ではアマゾン、ヤフオク、メルカリ、ラクマなど、オンラインで買い物ができるサービスがたくさんあり、日常にも十分浸透するようになった。今では日本のネットユーザーの68%がオンラインで買い物をしたことがあるという。タイでも、オンラインで買い物をしたことがある人の割合はネットユーザーの80%と、ECマーケットが日常によく浸透していることがわかる。

タイでよく使われているサービスには、Kaidee、Lazada、Shopeeなどがある。Kaideeは3000万人の会員数を誇るタイ最大手のC to C(一般消費者対一般消費者)のECサイトだ。日本のメルカリなどと比べると出品、出品日の延長、目立つ掲載位置の場所取りなどに料金がかかるため売る側には少しハードルが高い。電子決済機能が備わっていないので基本的には個々で話し合い直接商品の受け渡しをする。任意ではあるが、買い手からの信用を得るため電話番号などの個人情報を載せる必要があることも売る側のハードルをあげている要因だろう。売り手は副業感覚でやっている人が多く、ユーザーは売り手と買い手ではっきり分かれている印象だ。服や電化製品だけでなく、不動産や乗用車専門のプラットフォームもつくられ、そちらも好調に結果を出しているようだ。LazadaとShopeeはB to C(企業対一般消費者)のECサイトであり、どちらもタイだけではなくマレーシア、インドネシア、シンガポール、フィリピン、ベトナムなど東南アジアの国々でサービスを提供している。Lazadaは東南アジアのAMAZONと称されるだけありアクセス数1位の座は揺るがないが、2015年に創業したばかりのShopeeもテレビCMや屋外の看板など広告に力を入れていたおかげで会員数が激増し急成長した。B to Cなので一般消費者は売ることはできないが、個人商店などの登録も多く品ぞろえは豊富だ。日用品や消耗品なども扱っており、セール時を狙えば店頭で買うよりも安く買えるのでマメにチェックをしている人も多い。決済方法はカード払いネットバンキング、代金引換にも対応しているので購入する際のハードルも低く安全だ。まだまだ拡大し続けるタイのEC市場が今後どれだけ成長するか注目である。

新たなサービスの動向

LazadaもShopeeも東南アジア各国で展開しているEコマースの企業だが、Lazada Thailandはタイ国内で、Lazada Malaysiaはマレーシア国内でと、国内での取引で完結してしまっている。しかしもし御社がオンラインで物を販売する機会を検討するなら、国を跨いでなるべく多くの場所で商品を見てもらい、買ってもらいたいと考えるだろう。最近は越境EC、つまり国を跨いだECが盛り上がってきている。LazadaやShopeeなどのECサイトを利用して国を超えての取引を可能にするサービスである。たとえばECCS(Enterprise Commerce Cloud Service)というサービスでは、出品する手間は1回だけでLazada、Shopeeなど複数のECサイトのそれぞれの国に対して同時に出品することができる。商品が売れたとき、現地に在庫を配置しておけば運送業者に通知が届き、商品の配送までやってもらえる。さらに購入してくれたお客様の情報を取得し、そのお客様に合った広告を配信することでアップセル、クロスセルを狙うこともできる。ネットの情報をしっかり仕入れておけば、手間の少ない効率のいい方法を活用し業績を上げることも可能だ。タイのECはどんどん発展しているので、今後インターネットを使ったECをどのように自社のビジネスに活用するかが各所注目のポイントになっていくだろう。

また、タイ人のSNSアクティブユーザー数の多さを活用できるサービスも出てきている。たとえば今日本で急速に普及が進んでいるVisumoというツールは、一般の人がInstagramに投稿した写真から自社商品と関連のあるものだけをピックアップして自社サイトに掲載し、さらにそこから購入までの導線を引くことができる。Instagramを利用して売上向上、ブランドイメージの向上を図れるわけだ。広告に対して食傷している消費者に大金をかけてテレビCMを流すよりも、消費者自身が商品をアピールしてくれるInstagramはクチコミ効果も高く費用対効果がいいという理由でタイでも広がり始めている。

さいごに

タイのインターネット利用は年々増えており、SNSやEC市場もまだ拡大が見込まれる。タイでビジネスをしている皆様においては、自社ビジネスとタイのインターネットをどう結び付けるかが課題になってくるだろう。弊社ではタイ市場向けのデジタルマーケティングのお手伝いをさせていただいている。お困りごとがあればお気軽にご相談いただければ幸いである。